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東京高等裁判所 平成10年(ネ)2062号 判決 1999年2月09日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

当事者の主張は、控訴人の当審における主張を後記第四に記載するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する(以下、略語も原判決のとおりとする。)。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、これを認容すべきものと判断する。その理由は、控訴人の当審における主張に対する判断を後記第四に記載するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決15頁10行目の「乙川」を「乙山」と、同24頁7行目の「割賦販売法30条4項2号」を「割賦販売法30条の4第4項2号」と、それぞれ改める。

第四  控訴人の当審における主張とこれに対する判断

一  連帯保証人である控訴人の保証義務の及ぶ範囲

1  控訴人の主張

本件においては、被控訴人から西東京機材に支払われた立替金を丙野が個人として乙野に貸し付けたものであって、本件機械の買主であるエクシングのために連帯保証をした控訴人は、右金銭消費貸借契約上の返済義務まで保証するものではない。

2  当裁判所の判断

右主張が理由がないことは、原判決の説示するとおりである。

二  本件機械の売買契約及び本件立替払契約の効力

1  控訴人の主張

本件においては、西東京機材とエクシングとの間に本件機械の売買契約の外形が存在するだけで、両当事者には本件機械を売買する意思は全くないから、右売買契約は虚偽表示であって無効である。

そして、右売買契約が無効であれば、購入者が負うべき商品の販売代金残金も存在せず、商品販売代金残金が存在しない以上その立替払も存在しないことになるから、本件立替払契約も実体がなく無効となる。

2  当裁判所の判断

本件機械の売買契約と本件立替払契約とは、事実上の関連性があるだけであって、別個独立の契約であるから、仮に売買契約が無効であるとしても、本件立替払契約が無効となることはないと解される。

三  商品引渡欠缺の抗弁

1  控訴人の主張

甲第1号証の契約書には、売買契約が購入者にとって商行為であるときは、購入商品の引渡欠缺の抗弁を主張できず、被控訴人に対する支払停止をすることはできない、との定めがある。

しかし、この規定は、反復的あるいは継続的取引関係にある者の間では、個々の支払停止をせずとも、他の商品売買の決済の際に相殺的な処理が可能であることを考慮した便宜的規定にすぎず、本件のように取引が全く1回限りで、かつ、購入者及び販売者の双方に商品納品の意思が全く認められないような場合にまで適用されるものではない。したがって、本件を仕組んだ購入者自身は商品引渡の欠缺を主張することはできないが、連帯保証人はなおこれを主張し、支払停止の抗弁を主張できると解される。

また、右の規定は、少なくとも売買契約だけは有効に成立していることを前提にした規定であり、売買契約自体が実体としては全く存在せず、ただ販売店の代表者と購入者の代表者との間の金銭消費貸借契約があるにすぎないような場合には適用されるべきではない。

さらに、右のような異常な違法行為は商行為とみなされるわけがなく、右規定及び割賦販売法30条の4第4項2号の規定の適用は排除されると考えるべきである。

2  当裁判所の判断

控訴人の主張は根拠のない独自の見解であって、採用することはできない。

四  被控訴人と西東京機材との和解の成立と債務免除

1  控訴人の主張

被控訴人と西東京機材は、原審で訴訟上の和解をし、被控訴人は、西東京機材から平成10年1月末日限り和解金120万円の支払を受けるのと引換えに残債務の免除をした。

被控訴人と西東京機材の間の契約においては、西東京機材に禁止事項の違反があったときは、当然に西東京機材は当該クレジット契約上の債務を顧客と重畳的に引き受け(いわゆる重畳的債務引受である。)、残債務全額を直ちに一括して被控訴人に支払うものとする旨定められている。西東京機材はこれに基づきエクシングが負った債務を支払う旨の和解をしたものと考えられる。なお、重畳的債務引受がされると、旧債務者と新債務者は連帯債務者となると考えられるところ、債権者である被控訴人が連帯債務者の1人に残債務の免除をしたことになるが、債務の免除をした金額につき、西東京機材の負担部分については、他の債務者であるエクシングも債務を免れることになる。

そして、この和解金は、本件立替払契約が無効になった結果、西東京機材に支払われた不当利得の返還債務の支払であり、西東京機材の負担部分は全額であるから、エクシング及びその連帯保証人である控訴人には何ら債務が残らないことになる。

2  当裁判所の判断

本件記録によれば、原審の平成9年12月15日の第11回口頭弁論期日において、本件から西東京機材に対する弁論を分離した上、被控訴人と西東京機材との間で和解が成立したこと、その和解の内容の要旨は、<1>西東京機材は被控訴人に対し、本件和解金として120万円を平成10年1月末日限り支払う、<2>西東京機材がこの支払を怠ったときは、年1割の割合による遅延損害金を支払う、<3>被控訴人と西東京機材間には、本件に関し、本和解条項に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する、というものであることが認められる。

ところで、民法437条は、連帯債務者の1人に対してした債務の免除は、その債務者の負担部分についてのみ他の債務者の利益のためにもその効力を生ずると定めているが、債権者と連帯債務者の1人の間で債務の免除について合意をする場合において、当該債務の免除が相対的効力のみを有するものであり、他の連帯債務者にはその効力が及ばないとすることも可能であると解される。

そして、右和解には、和解のエクシングに対する効力についての条項はないが、被控訴人は、右和解成立後に控訴人に対する本件請求について120万円を減縮したにとどまり、依然としてエクシングの連帯保証人である控訴人に対する請求を維持しているのであるから、右和解において120万を超える部分の債務の免除が合意されたとしても、その効力はエクシングには及ばないとの趣旨で合意されたものと解するのが相当である。

したがって、被控訴人が支払を受けた120万円は別として、右和解によってエクシングないし控訴人のその余の債務も消滅したとすることはできない。控訴人の主張は採用することができない。

第五  結論

以上のとおり、原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よって、本件控訴を棄却し、控訴費用を控訴人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

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